情報の科学と技術
Vol. 53
 (2003) ,No.2
特集=電子政府と電子情報


特集「電子政府と電子情報」の編集にあたって

 米国アクセンチュアが昨年4月22日に発表した主要23か国の電子政府化達成度によると,第1位はカナダ,次いでシンガポール,アメリカの順であった。日本は17位でアクセンチュアによれば,まだ「発展途上」という評価であった。
 実際には,「発展途上」と評価を受けた日本の電子政府はどのような状況にあるのだろうか。私たちのような情報担当者からみても,具体的な方策や利用環境の整備の程度を実感できるような環境にあるとは言いがたい状況にあるように思われる。
 今回の特集では,日本における電子政府の現状ならびに従来のいわゆる「来館型」政府を「非来館型」の電子政府化にすることによって,政府情報あるいは行政情報の発信はどのように変化し,それに伴って我々図書館員・情報担当者の仕事・サービスにどのような関わりが生じるかを紹介できればと思う。
 (会誌編集委員会特集担当委員:深澤剛靖,都築埴雅,遠山美香子,吉間仁子)

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政府情報へのパブリックアクセス論
根本 彰*
*ねもと あきら 東京大学大学院 教育学研究科
 〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
 Tel. 03-5841-3975(原稿受領 2002.11.25)

 政府情報の公開体制をめぐる最近の動きを,それ以前の政府刊行物の流通体制と対比させながら検討した。従来,印刷物としての情報を提供するためには米国連邦政府のGPOのような集中的な印刷頒布の仕組みが有効だったが,わが国では広報的なもの以外の情報についての公開の仕組みは弱体だった。
 これが1990年代後半以降,情報公開法の施行,政府機関の説明責任を明らかにする動き,そして積極的に国の活動にITを取り入れる動きがあいまって,政府情報へのパブリックアクセスを可能にする態勢が整いつつある。特にe-Japan重点計画においては,請求に応じての行政情報の開示ばかりでなく,ホームページを通じてのより能動的な情報公開も行われているが,保存問題を含めた情報管理の全体像がまだ検討されていないことを述べた。

 キーワード:政府情報,ドキュメント,政府刊行物,公文書,GPO,情報公開法,広報,非開示情報,資料保存,e-Japan重点計画

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電子政府と情報ネットワーク法
坂田 仰*
*さかた たかし 日本女子大学 家政学部 家政経済学科
 〒112-8681 東京都文京区目白台2-8-1
 Tel. 03-5981-3508(原稿受領 2002.11.19)

 日本社会は,20世紀後半以来,情報通信技術を中心としたIT化の波に覆われている。デジタル化,インターネットの普及は,生活全般に多大な影響を与えている。行政の分野もまた例外ではない。政府は,「行政情報のデジタル化」を一貫した政策として掲げ続けており,日本社会はもはや「電子政府」の時代に突入したともいわれる。しかしその一方で,「電子政府」を支える法的基盤である情報ネットワーク法の整備は,未だ十分ではない。情報ネットワーク法の標準装備の一つである個人情報保護に関する法制度の欠落,IT化の波から取り残される人々の問題等は,その象徴的存在である。日本社会を真の情報社会へと深化させるためには,これらの問題を克服することが課題となろう。

 キーワード:電子政府,情報ネットワーク法,IT,プライバシー侵害,デジタル・ディバイド,「持つ者」と「持たざる者」

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政府刊行物のネットワーク流通と情報サービスの変容
戸田愼一*
*とだ しんいち 東洋大学社会学部
 〒112-8606 東京都文京区白山5丁目28番20号
 Tel. 03-3945-7444(原稿受領 2002.12.24)

 政府刊行物は情報資源として重要であるにもかかわらず,その存在がわからなかったり入手が困難であったりしたため,しばしば「灰色文献」の代表例として扱われてきた。国民へのインターネットの普及が進む中,政府機関は情報提供にインターネットを積極的に導入することを試みている。これにともない,政府刊行物(行政情報)の入手や利用形態がこれまでの印刷物とは大きく異なってきた。本稿では,政府刊行物の電子化,ネットワーク化の動向を,政府の情報政策の面からとらえ,現在の問題点を分析するとともに,図書館サービス,情報サービスの変容について考察する。

 キーワード:政府刊行物,行政情報,灰色文献,電子出版,インターネット,図書館サービス,情報サービス

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電子政府の総合窓口システムについて
秋山英己*
*あきやま ひでき 総務省 行政管理局 行政情報システム企画課
 〒102-0074 東京都千代田区九段南1-1-10
 Tel. 03-3265-9246(原稿受領 2002.11.20)

 政府は行政情報化推進計画をはじめとする各種の決定に基づき行政情報の電子的提供の推進を図ってきた。
 総務省では,平成13年4月から,@各府省がホームページに掲載している情報を一元的に検索する機能,A各府省の行政文書ファイル管理簿を一元的に検索する機能,B各府省が所管する行政手続に関する情報を一元的に検索する機能などを備えた「電子政府の総合窓口システム」の運用を開始した。
 今後,電子政府の構築が進むと,オンラインサービスの一元的な窓口として「電子政府の総合窓口システム」の役割が増大することとなり,システムの利便性向上などが求められる。

 キーワード:電子政府,ポータルサイト,行政情報,オンラインサービス,検索システム

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電子政府の最新動向とNECの取り組み
田渕樹子* 
*たぶち みきこ NEC e-ガバメントソリューション推進本部 事業推進部
 〒108-8001 東京都港区芝5-7-1
 Tel. 03-3798-9201(原稿受領 2002.11.21)

 日本政府は,2003年の電子政府の実現に向けて,各種の施策に取り組んでいる。
 本稿では,電子政府に関する政府のIT政策,電子政府を構成する主要システムの概要,NECの取り組みについて紹介する。

 キーワード:電子政府,電子自治体,e-Japan戦略,電子申請,電子調達,電子認証,電子決済

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会津若松市における電子自治体への取り組み
〜多目的ICカードとIC図書サービス〜
鵜川 大* 
*うかわ まさる 会津若松市役所 総務部 情報政策課
 〒965-8601 福島県会津若松市東栄町3番46号
 Tel. 0242-39-1214(原稿受領 2002.11.18)

 政府のe-japan計画に代表されるように,地方自治体においても電子自治体構築へ向けて積極的な取り組みがなされている。
 会津若松市では,市民のIT社会参加への意識や住民の利便性向上,行政事務の効率化等を目的とし,経済産業省による「ICカードの普及等によるIT装備都市研究事業」を実施した。
 1枚のカードにより,行政サービスと民間サービスが一緒に提供できる多目的ICカードを導入し,次世代の行政サービス提供のあり方を検証する。

 キーワード:多目的ICカード,Aoiカード,証明書自動交付サービス,IC図書サービス,IC医療費助成申請サービス,IC商店街ポイントサービス,IC會津風雅堂ポイントサービス

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シアトル市が提供する行政サービス
高村 茂*
*たかむら しげる 鞄本総合研究所 創発戦略センター
 〒102-0082 東京都千代田区一番町16
 Tel. 03-3288-4187(原稿受領 2002.12.18)

 シアトル市の行政サービスが注目されているのは,市民とのコミュニケーションを目的とするホームページ(HP)を構築したことと,豊富な生活支援情報を提供したことによる。
 シアトル市のように,官民問わず地域の情報を取り扱っている自治体のHPは,わが国には存在しない。市民ニーズに対応するためには,地域情報の玄関「ポータル」となるサイトが必要なのだが,わが国では民間の情報を自治体のHPで取り扱うことが難しいのが現実である。しかし,住民の意向を反映するためには,こういったHPが必要とされていることから,本稿では市民ニーズに沿ったシアトル市の行政サービスについて,HPのコンテンツを取り上げて解説した。

 キーワード:ポータルサイト,市民とのコミュニケーション,豊富なコンテンツ,市民がクライアント,生活支援,官民連携

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寄 稿
製薬企業Webサイトで見つける治験薬情報
―治験薬データベースとの比較―
岡 紀子*1,仲 美津子*2,中北 美佐子*3 
*1おか のりこ,*3なかきた みさこ 住友化学工業 有機合成研究所 研究グループ(開発)
 〒569-1093 大阪府高槻市塚原2丁目10番1号
 Tel. 072-692-5347
*2なか みつこ 泣Aイ・エー・シー(井上学術情報センター)
 〒532-0011 大阪府大阪市淀川区西中島5-6-13 新大阪御幸ビル7F
 Tel. 06-6101-5051(原稿受領 2002.11.28)
 (注)本稿は平成14年6月のINFOSTAシンポジウム2002での発表内容に加筆修正したものである。

 医薬品の開発情報は通常市販の治験薬データベースを利用して調査する。しかしそれでは見つからない情報が,開発元の製薬企業Webサイトで見つかることがある。そこで海外製薬企業12社,国内製薬企業11社について,企業Webサイトから見つけた治験薬情報を基本に,市販の治験薬データベースへの掲載有無を個別に調査した。その結果,各社のWebサイト掲載治験薬は件数は少ないが,治験薬データベースに収録のないものや,PhaseUという重要な段階のものが見つかった。また各社Webサイトをユーザビリティの視点から評価し,5種類のレベルに分類した。さらにWebサイト上での治験薬情報公開の目的,各社の特徴および将来の動向についても知見が得られたので報告する。

 キーワード:製薬企業,治験薬情報,R&Dパイプライン,Webサイト,ホームページ,ユーザビリティ・アクセスビリティ,Pharmaprojects,Pioneer,Cipsline,明日の新薬

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