情報の科学と技術
Vol. 52
 (2002) ,No.5
特集:図書館コンソーシアムの動向


図書館コンソーシアムと学術情報コミュニケーション
済賀宣昭* 
*さいが のぶあき 東北大学附属図書館
 〒980-8576 宮城県仙台市青葉区川内
 Tel. 022-217-5906  (原稿受領 2002.2.18)

学術雑誌の出版量の増加と価格の高騰により,学術情報コミュニケーションは危機的状況にあるが,その中でも電子ジャーナルの導入は戦略的な意義がある。電子ジャーナルという情報商品が持つ特質から,価格設定はライセンス契約における出版者との交渉という形で行われる。そこで図書館は,交渉力強化や知識・経験の共有のためコンソーシアムを形成する。コンソーシアムも組織としての管理体制と経営評価が必要であり,単なるbuying clubとしてのグループではなく,学術情報コミュニケーションにおいてデジタル情報の生産・配信連鎖のポジティブサイクルを構築する中核組織になるべきである。
 
キーワード:コンソーシアム,電子ジャーナル,ビッグ・ディール,ライセンス契約,モデル・ライセンス,経営評価

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国立大学図書館協議会のコンソーシアム構想について
伊藤 義人*
*いとう よしと 名古屋大学附属図書館 館長
 〒464−8601 愛知県名古屋市千種区不老町
 Tel. 052-789-3663  (原稿受領 2002.3.11)

国立大学図書館協議会の電子ジャーナルタスクフォースの立ち上げ経緯とその成果について説明している。電子ジャーナルタスクフォースによる大手出版社との電子ジャーナルのコンソーシアム契約実現までの活動状況を説明するとともに,今後の問題点について概説している。今後,成果として得られたコンソーシアムを維持するとともに,新しいコンソーシアムを確立するためには,持続可能な交渉主体が必要であり,かつ,学術情報流通の革新も必要であることを明らかにしている。

キーワード:コンソーシアム,電子ジャーナル,国立大学図書館協議会,学術情報

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International Coalition of Library Consortia (ICOLC)の動向
村上泰子*
*むらかみ やすこ 梅花女子大学
 〒567-8578 大阪府茨木市宿久庄2-19-5
 Tel. 0726-43-6221  (原稿受領 2002.2.28)

1997年に図書館コンソーシアム間の非公式の協議組織として発足したICOLC(International Coalition of Library Consortia)は学術研究情報の円滑な流通を目標とする国際組織である。本稿ではまずICOLC加盟機関の特徴を分析し、ICOLCの主たる活動内容を概観した。次に、2001年12月に図書館コンソーシアムの方針に関するガイドラインが改訂されたことを受け、改訂前と改訂後のガイドラインの比較を通じてICOLCの政策展開の動向について考察した。

キーワード:ICOLC,コンソーシアム,電子ジャーナル,図書館協力,電子情報資源,資源共有,リソース・シェアリング

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中国における学術図書館コンソーシアム
呑海沙織*
*どんかい さおり 京都大学附属図書館情報管理課受入掛
 〒606-8501 京都府京都市左京区吉田本町
 Tel. 075-753-2622  (原稿受領 2002.2.25)

1978年の改革開放政策以来,中国における学術図書館を取り巻く環境は,大きく変化している。1990年以降は,情報基盤の整備や図書館資料費の不足を背景に,資源共有を目的とした図書館コンソーシアムの形成が推進されている。CALIS(China Academic Library and Information System)は,1998年に立ち上げられた重点大学構想211プロジェクト下の図書館コンソーシアムである。学術情報ネットワークCERNETを基盤とした全国規模の情報資源共有システムの構築をその目的とする。本稿は,CALISを中心に,中国における学術図書館コンソーシアムについて考察する。

キーワード:図書館コンソーシアム,CALIS(中国学術図書館情報共有化システム),211プロジェクト,高等教育,中国

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電子ジャーナルと図書館コンソーシアム―学術コミュニケーションのパラダイム変化への対応―
北 克一*
*きた かついち 大阪市立大学 学術情報総合センター
 〒558-8585 大阪府大阪市住吉区杉本3-3-138
 Tel. 06-6605-3382 (原稿受領 2002.3.4)

ネットワーク基盤の確立とそこを流通する学術情報コミュニケーションの変化は,従来の体制に大きな変容をせまっている。学術情報流通の中心である学術雑誌は内的に変化しつつあり,“scholar's portal”の中心素材に変化している。本稿では,電子ジャーナルを中心に電子情報資源をめぐる課題,挑戦,共同行動等について論ずる。

キーワード:電子情報資源,電子ジャーナル,図書館コンソーシアム,学術情報流通の変化

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インフォメーション・プロバイダーから見た図書館コンソーシアム
渡辺麻子*
*わたなべ あさこ アイ・エス・アイ-トムソン
 〒100-0003 東京都千代田区一ツ橋1-1-1 パレスサイドビル5階
 Tel. 03-5218-6537 (原稿受領 2002.3.6)

海外でコンソーシアムの経験をもつインフォメーション・プロバイダーからみたコンソーシアムの現状を述べる。海外ではコンソーシアム側とインフォメーション・プロバイダー側にパートナーシップが存在し,本来の図書館コンソーシアムが目指す高度共通目的を実現していることに注目した。日本でもコンソーシアムが形成されつつあるが,インフォメーション・プロバイダーとパートナーシップを育ててゆくには,まだ時間を要する。

キーワード:コンソーシアム,二次資料,情報プラットフォーム,データベース,引用リンク,パートナーシップ

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投 稿:図書館利用教育・情報リテラシー教育をめぐる動向:1999〜2001
安藤友張*
*あんどう ともはる 名古屋芸術大学附属図書館
 〒481-8504 愛知県西春日井郡師勝町熊之庄古井281
 Tel. 0568-26-3121 (原稿受領 2002.2.22)

本稿では,わが国において,1999年から2001年までの過去3年間に刊行された図書館利用教育及び情報リテラシー教育に関する文献(修士論文・科学研究費報告書などの灰色文献も含む)や電子情報源を取り上げ,解題を通して研究動向や実践動向を俯瞰する。館種別でみると,大学図書館における利用教育及び情報リテラシー教育に関する文献が多い。大学図書館の場合,研究面では,調査研究,外国研究,理論研究,実験研究,歴史研究など数多く多種多様であり,実践面においては,国立大学附属図書館を中心とした事例報告が多い。一方,公共図書館と学校図書館の場合,文献が少なく,実践が低調で,研究面では,外国研究(おもにアメリカ)が多い。

キーワード:情報リテラシー,情報リテラシー教育,図書館利用教育,図書館利用者教育,文献利用指導

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編集後記

最近仏壇を新しくしたので,それを機に我が家の過去帳を書き直すことにした。過去帳とは先祖代々の戒名を書き連ねた小冊子で,和紙に濃くすった墨で書く。学生時代に書道をたしなんだことがある私が書き直すことになったが,未来に残るものだからいい加減には書けないなぁと少々重荷になっている。しかしその反面,前回書き直されたのが百年以上前なので,今回も百年以上後世に残るのかと思うと嬉しさを感じ,筆を持つ手にも自然に熱がこもる。

  今回,過去帳を書き直すまで,和紙と墨の用途は,芸術作品か芳名録くらいだと思っていたので,こんな実用的な用途が残されている事に驚いた。しかし改めて考えてみると,適度な強度がある和紙と色褪せしにくい墨の組み合わせは,非常に保存に適した素材だと再認識した。それにしても司書になってから,こんな事ばかり気になるようになってしまった。

  私の勤務している図書室では古い資料が良く利用されるので,60年代と聞いてようやく「古いな」と感じるくらいである。そのため資料の保存については考えさせられることが多い。最近は外部機関からの文献調達が気軽にできるようになり,保存の意味合いも薄れるかと思ったが,やはり社内ですぐに閲覧できることが利用者への最大のサービスのようだ。しかし実際は,保存スペースがないために廃棄を余儀なくされる事が多く,とても残念に思っている。CDやオンラインジャーナルといった新しいメディアに頼ればスペース問題は解決されるが,CDにも寿命はあるし,オンラインジャーナルも契約中止後についてほとんど保証されていない。企業図書館のように保存のために新たな投資ができない機関では,今のところ紙が一番保存に適しているメディアなのかもしれない。

  さて,あと百年たった時,どんなメディアが主流になっているのだろうか?近年だけでも新しいメディアがいくつも誕生したような気がするので,保存にも再生にも適している画期的なメディアが生まれ,司書の悩みを少しでも軽減してくれることを期待している。しかし百年は長いようで短い。相変わらず保存は紙に限るなんて言っている可能性があるのかもしれない。(Y.S.)

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