情報の科学と技術
Vol. 52
 (2002) ,No.2
特集=電子ジャーナル



特集「電子ジャーナル」の編集にあたって

 (会誌編集委員会特集担当委員:山本和雄,伊藤淳,重田有美,新保佳子,遠山美香子, 吉澤麻美)

その登場から数年を経て,私たちの身の回りにも電子ジャーナルの導入・活用に向けた具体的な取り組み事例の報告が増えてきました。この会誌の読者も,電子ジャーナル化が進むことによって文献の探索手段にはどのような変化が現れているのか,あるいは契約条件や利用の制限などはどうなっているのかなどの日常の実務に即した問題への対応に迫られ,事態の把握に努めておられることでしょう。これら日々直面している変革の背後には,一体何があるのでしょうか?日進月歩で発展するコンピュータ技術やネットワークの普及を背景として図書館や情報センターが電子図書館的機能の整備に努力する一方,そのサービスの対象となる研究者の間には新しい環境を活用する研究スタイルの模索が始まっています。また,これまで長く印刷出力媒体を基本にしてきた出版流通の世界も,新たな枠組みを生かした刊行形態に挑戦しようとしています。今回の特集では,情報を仲介する視点から一歩進んで,様々な異なる角度から見た電子ジャーナルをめぐる状況を紹介します。この新しい事象を多面的に捕らえることにより,さらに理解を深めるとともに将来への展望につなげていきたいと思います。

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電子ジャーナル:―短い歴史から学ぶこと―
土屋 俊*
*つちや しゅん 千葉大学文学部・附属図書館
  〒263-8522 千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33
  Tel. 043-290-2240(原稿受領 2002.1.7)

1990年代末における電子ジャーナルの急激な普及は,21世紀の学術コミュニケーションの世界の変貌を予兆する画期的な出来事であったが,日本の関係諸方面における対応はその動きに遅れた。この状況を,19世紀以来の近代的学術コミュニケーションの展開および20世紀後半の情報通信技術の発達とのふたつの流れのなかで位置づけたのちに,2000年から2001年における日本における対応状況を紹介して,今後の展望・課題を述べる。

キーワード:電子ジャーナル,学術コミュニケーション,インターネット,ワールド・ワイド・ウェブ,シリアルズ・クライシス,図書館コンソーシアム

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図書館WebOPACを活用した電子情報の提供
黒澤公人*,相徳真理**
*くろさわ きみと **あいとく まり 国際基督教大学図書館
  〒181-8585 東京都三鷹市大沢3-10-2
  Tel. 0422-33-3661(原稿受領 2001.11.21)

現在,多くの大学図書館が,電子情報を積極的に活用しようとしている。特に,商業出版社が発行する電子ジャーナルやオンライン・データベースといった商品を,紙媒体に替わる資料として,積極的に導入する図書館も増えている。大学図書館に広く普及しているWebOPACシステムもインターネット技術を利用したものであり,他のシステムと連動することによってその価値を飛躍的に高めることができる。オンライン商品は単独でも優れたデータベースではあるが,図書館WebOPACと連動させることによって,電子媒体資料として図書館の蔵書と同様に扱うことができ,より有効に情報を活用することが可能になる。事例を紹介しながら,図書館システムと電子情報の連携のあり方を検討する。

キーワード:大学図書館,WebOPAC,情報検索,インターネット,書誌データベース,全文データベース,電子ジャーナル

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コレクション構築・整備―中国・台湾の電子文献について―
二階堂善弘*
*にかいどう よしひろ 茨城大学人文学部
 〒310-8512 茨城県水戸市文京2-1-1
 Tel. 029-228-8541(原稿受領 2001.11.20)

中国や台湾では,『四庫全書』『四部叢刊』など,古典を中心として膨大な電子テキストやデータベースが構築されている。この影響は中国学のみならず,もっと広範囲に渡ることになろう。

キーワード:電子テキスト,データベース,中国,台湾

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電子ジャーナル:―学術情報コミュニケーションの行方―
高田 彰*
*たかだ あきら 筑波大学臨床医学系
 〒305-8575 茨城県つくば市天王台1-1-1
 Tel. 0298-53-3618(原稿受領 2002.1.7)

電子的なコミュニケーション手段の普及と発展により,学者による論文の執筆と学術雑誌への投稿,編集者による論文審査と雑誌編集,出版社と代理店による雑誌出版とその流通,図書館による雑誌購読とその蓄積,読者による学術情報の利用,という伝統的な学術情報コミュニケーションの環に大きな変化が生じている。新たな学術情報コミュニケーションの方法を模索し,多様な取り組みと活発な議論が展開されている。生命科学領域における話題を中心に,学者,学協会,そして図書館の果たす役割を紹介する。

キーワード:学術情報コミュニケーション,電子ジャーナル,コンソーシアム,論文レポジトリ,プレプリント,メタデータ,リンク付け

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オンラインジャーナル「人工知能学会論文誌」の導入
折原良平*,石塚 満**
*おりはら りょうへい 鞄月ナ 研究開発センター 知識メディアラボラトリー
 〒212-8582 神奈川県川崎市幸区小向東芝町1
 Tel. 044-549-2398
**いしづか みつる 東京大学 工学部 電子情報工学科
 〒113-8656 東京都文京区本郷7-3-1
 Tel. 03-5841-6347(原稿受領 2001.11.27)

人工知能学会では,会誌改革と学会員サービス向上の一環として,2001年1月1日から「人工知能学会論文誌」をオンライン公開した。人工知能学会論文誌は,紙媒体の論文誌の補助ではなく,オンラインジャーナルとしてのみ存在するもので,このような形式での本格的な学会オンライン論文誌の運用は本邦初である。オンラインジャーナルのプラットフォームとしては,国立情報学研究所の提供する「オンラインジャーナル提供システム」を用いている。本稿では,オンラインジャーナル発刊を決定するまでのいきさつと,それを実現する上でのさまざまな困難や,その解決について述べる。

キーワード:オンラインジャーナル,国立情報学研究所,インストール,SSL,発行タイミング

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日本化学会論文誌の状況と電子ジャーナルの運用における考察
林 和弘*,門條 司**
*はやし かずひろ,**もんじょう つかさ (社)日本化学会
 〒101-8307 東京都千代田区神田駿河台1-5
 Tel. 03-3292-6165(原稿受領 2001.11.26)

日本化学会の定期刊行物の状況を紹介すると共に,1993年の全文SGML化から1999年の有料公開までを含めた電子ジャーナル化ならびにJ-STAGEへの搭載までの経緯を解説する。一方これまでの構造化文書の運用における問題点の考察を加え,一つの解決策としてTeX-3B2システムを紹介する。更に構造化文書の運用における潜在的な難しさを構造化エントロピーの概念を用いて解説し,電子ジャーナルサービスの裏側に隠されているコスト要因を指摘すると共に,健全なビジネスモデルを持つ電子ジャーナルサービスの難しさについて考察する。

キーワード:電子ジャーナル,J-STAGE,SGML,3B2,TeX,構造化文書,構造化エントロピー

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投 稿 特許情報の効率的なマクロ解析手法の検討 〜Fタームを活用したパテントマップ〜
高橋昭公*
*たかはし てるあき テル・リサーチ
 〒358-0027 埼玉県入間市上小谷田1-3-4-210
 Tel. 042-962-6383(原稿受領 2001.12.7)

(注) この論文はINFOSTAシンポジウム2001で発表されたものです。
大量の特許情報を短時間で解析できる効率的なマクロ解析の手法が求められ,リスト型のパテントマップが機械的に特許情報を処理できるので効率的な手法として注目されている。しかし,従来の方式は出願人や分類(IPC,FI等)等の解析要素のみを用いた解析であったために,技術内容の解析が不足している課題があった。本報告は,特許情報の調査や解析に有用とされているFタームを解析要素として応用したもので,その活用の考え方,それを用いた解析手法の検討結果,その手法の事例による確認結果等を報告する。検討の結果,Fタームを活用することで技術内容を詳細に解析できることが示せた。

キーワード:特許情報,マクロ解析,パテントマップ,IPC,FI,Fターム,調査,解析,解析要素,マップ化ソフト

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投 稿 情報探索過程を踏まえた検索システムの開発へ向けて ―レファレンス・ブックを利用した探索過程の調査―
渡邊智山*
*わたなべ としたか 関西大学 文学部
 〒560-8680 大阪府吹田市山手町3-3-35
 Tel. 06-6368-0148(原稿受領 2001.12.11)

本研究は,司書課程受講者436名を対象に,彼らがどのようなレファレンス・ブックを利用して情報探索を進めるのかを調査したものである。明らかになったのは,以下の点である。(1)事典・図鑑類と辞典・辞書類の利用度はかなり高く,その割合は全体の40%以上である。(2)情報探索過程は,実際には,二次資料,三次資料,二次資料というように展開する。この結果を踏まえ,レファレンス・ブックを情報源として持つ情報検索システムの検索手順のモデルを提示した。

キーワード:情報探索過程,レファレンス・ブック,情報検索,情報探索パターン,データベース,図書館情報学

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