情報の科学と技術
Vol. 52
 (2002) ,No.1
特集=科学情報の倫理



特集「図書館の快適性を再考する」の編集にあたって

 (会誌編集委員会特集担当委員 小陳左和子,重田有美,豊田恭子,松林正己,村上勝美)

「快適な図書館」というと,どんなことを思い浮かべられるでしょうか?  威圧感がなく,なんとなく入りやすい。居心地がよくてつい何時間も過ごしてしまう。どこに何があるかがわかりやすい。とにかくたくさん本がある。落ち着いて本が読める。ほしい情報がすばやく的確に得られるような工夫がなされている。職員が親切,話しかけやすそう,きびきびと働いている。明るくきれい,あるいは荘厳でアカデミックな雰囲気。そこにいるだけで心が和む,あるいはわくわくする。などなど。  人によって利用目的によって若干の違いはあるものの,使いやすく心地よい空間・サービスを提供してくれるところ,と言ってよいでしょう。図書館家具の設計やレイアウトに携わり,全国各地の図書館を実際に見聞した経験からの提言。予算も人員も限られた小規模の専門図書館で,情熱と知恵というソフトウェアの面から快適性を生み出すワンパーソンライブラリアンの実践例。レポート作成法を指導する中で,学生に図書館活用を体験させている大学の先生が考える,大学図書館の使いやすさとは。来館者に対してだけでなく,インターネット技術を活用して,時間と空間を超えた情報コミュニティ作りを目指す過程と実践。「図書館よりもっと図書館」をコンセプトに作られた書店に学ぶ戦略。建築学の研究者の観点から,図書館のアメニティについての考察。今回は,このようにさまざまな立場・環境の方々から,それぞれのご経験に基づいて,バラエティに富むお話を伺うことができました。情報のサロンとして,知のパラダイスとして,図書館が進歩し続けていくために,快適性とは何なのか,私たちは何をすればよいか,改めて考えて
みませんか。

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利用したくなる情報空間をめざして―図書館の家具とレイアウト―
平湯文夫*
*ひらゆ ふみお 図書館づくりと子どもの本の研究所 代表
  〒852-8045 長崎県長崎市錦2-4-23
  Tel. 095-844-8270(原稿受領 2001.10.25)

本論は,大学図書館や専門図書館の利用者に,「どうしたら親しみがもてて心地よい」スペースが提供できるかということについて述べたものである。既存の図書館は,その建物にも家具にも,その思いと感性が欠けているように思われる。もしこの「親しみがもてて心地よい」空間を館内に創り出せるなら,利用者の数はふえ,利用の質も高まるはずである。既成の館内でのアメニティづくりは,まず,玄関とブラウジングコーナーから始めて,ポピュラーコーナーをつくることへと広げていきたい。それには,桜やパインなどの暖かい色の自然材を使い,曲線や暖色をとり入れるなど,用材やデザインを暖かく心地よいものに思いきって変えていくことである。

キーワード:大学図書館,専門図書館,アメニティ,図書館家具,平湯モデル図書館家具,レイアウト,ディスプレイ

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図書館の快適性を支えるライブラリアン―小規模公開制図書館でのハート&ハード実践例
松下美子*
*まつした よしこ (社)都市開発協会 都市問題図書館
  〒100-0014 東京都千代田区永田町2-13-1ゼクセルビル赤坂 3F
  Tel. 03-3580-3871(原稿受領 2001.11.6)

図書館のアメニティを考える時,設計や設備などのハード面だけではなく,ライブラリアンによるソフト面も重要なのではないか。あるワンパーソンライブラリーでの取組みを紹介,人的資源としてのライブラリアンについて考える。都市問題図書館は,1974年に(社)都市開発協会が開設した専門図書館である。限られた予算と人手の中で,気持ちよく利用してもらうためにさまざまな創意工夫をしている。図書館はサービス業であるという認識,少しずつの改善,視野を図書館から広げることが当館のサービスの基本である。

キーワード:アメニティ,ライブラリアン,資質,人的資源,ワンパーソンライブラリー

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レポート作成指導授業と図書館の快適性―大阪市立大学学術情報総合センターの場合―
井上浩一*
*いのうえ こういち 大阪市立大学文学研究科
 〒558-8585 大阪府大阪市住吉区杉本3-3-138
 Tel. 06-6605-2400(原稿受領 2001.11.13)

大阪市立大学において行なっている,学生に図書館を利用しつつレポートを作成させる授業を通じて明らかとなった,学生の大学図書館利用上の問題点をまとめた。2001年度前期に行なったレポート作成指導授業を紹介したのち,学生のレポート作成過程において図書館に求められる諸機能 参考図書(辞典・書誌・文献解題等)やOPACといった情報検索機能,図書の収蔵・配架等の情報提供機能,さらに情報処理機能や閲覧室の静寂性 について述べた。

キーワード:大学図書館,OPAC,アメニティ,文献検索,情報処理,レポート作成指導

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インターネット時代のライブラリー・アメニティを目指して
穂井田直美*
*ほいだ なおみ 富士通 コンピュータ・サロン
 〒140-8508 東京都品川区大井1-20-10 富士通大井町ビルB-1F
 Tel. 03-3778-8122(原稿受領 2000.10.22)

インターネットの普及により,世界中,何時でも何処からでも,非常に低いコストで,情報へのアクセスが可能になってきている。ライブラリーにとって,このような特性は非常に有効で,利用者のアメニティを向上させるために,積極的に導入・活用をはかるべきである。しかし実現のためには様々な問題や障害に直面する。情報技術分野の専門ライブラリーであるコンピュータ・サロンの活動を事例に述べるが,インターネットを活用し,利用者とのコミュニティ作りを重視した運営を行うことは,利用者へのサービス向上だけでなく,運営上の問題解決にも有効である。

キーワード:インターネット,事例,コンピュータ・サロン,アメニティ,コミュニティ

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利用者が求める快適な環境づくり―ジュンク堂書店の書店展開から見えてくるもの―
田口久美子* 
*たぐち くみこ ジュンク堂書店 池袋店
 〒171-0022 東京都豊島区南池袋2-15-5
 Tel. 03-5956-6111(原稿受領 2000.10.22)

戦後日本の書店業界は他の業界と比較すると平穏な歩みであったろう,つい十数年前までは飛躍の一途であった。そして時代の変化との連動に不協和音が発生したまさにその時期に,電撃のように襲い掛かったのがジュンク堂書店である。その最大店舗池袋店は1997年オープン,その後の増床を経て,2001年12月現在で営業床面積2000坪で日本一,販売在庫数では世界一の規模を誇っている。本文はこのジュンク堂の顧客戦略をモデルケースにして分析し,戦後日本書籍業界の辿った道のりと,現状の問題点を浮彫りにしたい。この困難な時期をどう乗り越えるか,今が,出版界のこれからを左右する大切な岐路であるだろうから。

キーワード:ジュンク堂,書店,書籍業界,歴史,顧客サービス

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図書館建築のアメニティに関して
上本信三*
*うえもと しんぞう 中部大学建築学科
 〒487-0027 愛知県春日井市松本町1200
 Tel. 0568-51-1111(原稿受領 2001.10.30)

この論文は図書館のアメニティに関する建築論的な考察である。本研究の目的は電子ネットワークメディアが普及する社会において,図書館建築のアメニティがどのように捉えられ,また変化しているかについてである。論考を進める上での手順としては,@言葉の定義,A言葉の再定義,B具体的な例証,C総括の順で展開される。したがって具体的には,@単語の定義では,「図書館の建築とアメニティに関する問題の把握」,Aの言葉の再定義では,「ネットワーク社会における図書館のアメニティの再認識」,Bの具体的な例証では,「現代建築家の図書館建築の思想」,C総括以上について考察されていく。

キーワード:図書館建築,アメニティ,知覚像,心理的空間,視線

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解 説 書誌的情報の記述から電子文献参照へ―「SIST 02 参照文献の書き方」の変遷と展開―
寺村 由比子*
*てらむら ゆいこ
 〒 175-0093 東京都板橋区赤塚新町3-32-2-205
 (原稿受領 2001.10.3)

「SIST 02 参照文献の書き方」は,1975年に「書誌的情報の記述に関する基準(案)(参照文献の書誌記述)」として公表されたのに始まるが,基準化の後も数回の改定を重ね,この間状況の変化に応じて書誌要素の必要度の段階や二次資料の書誌記述の扱い等を変更している。本稿ではこの25年に及ぶ変遷を概観し,参照文献の役割や標準化の意義についても考察する。また昨秋,「SIST 02」の補遺として「電子文献参照の書き方(案)」が公表されて新しい展開を迎えたが,これに伴う問題についても述べる。

キーワード:SIST,基準,書誌記述,参照,引用,電子文献,標準化

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投 稿 東京大学における新しい情報サービスの戦略と展開―利用者が電子図書館に求めるもの―
茂出木 理子*
*もでき りこ 東京大学情報基盤センター 学術情報リテラシー掛
 〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
 Tel. 03-5841-2649(原稿受領 2001.10.22)

(注) 本稿は平成13年6月のINFOSTAシンポジウム2001での発表内容に加筆修正したものである。
  本稿では, 東京大学情報基盤センター図書館電子化部門において, 平成11年の発足以来, 取り組んできた研究・学習に直結する電子図書館サービスについて紹介する。電子ジャーナルやデータベースなどデジタルコンテンツの提供では,利用者のニーズに応えるとともに, コストパフォーマンスを重視したサービスを実施してきた。情報リテラシーや情報発信,そして研究部門での研究成果を反映した新しい情報サービスなどの戦略を示唆する。

キーワード:電子図書館,デジタルコンテンツサービス,情報発信,情報リテラシー,コストパフォーマンス,情報戦略,携帯端末OPAC

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