2000年 11月号抄録

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特集「医学情報を探す」の編集にあたって

医学分野の情報は,雑誌に掲載された論文,学会発表,書籍などの文献ばかりでなく,医薬品の化学構造式やデータ,その効能効果の概要など膨大な量にのぼります。  このため,古くから二次資料・索引の整備,データベース化が進められており,数値データ,化学構造式のグラフィック対応も含め情報の蓄積・整理・検索という局面においても先駆的な役割を担ってきました。  しかしながら,その医学情報を調査する側から見ると,現在でも複雑で多岐にわたる資料であるのに,さらにWeb上の情報源への対応も迫られ始め,いっそうの戸惑いを感じる分野ではないか,と思われます。  本特集では,従来の構成とは異なり,広く一般図書館員,情報管理者をはじめ医学を専門としていない方々にも医学情報をより身近に調査いただけるよう,「医学書」,「予稿集」,「データ集」,「医薬品情報」,「副作用情報」といった観点に絞り,調査する立場からの解説をご執筆いただきました。テーマについては,医学固有の資料形態および医薬品との情報源のバランスを考慮しましたが,この内容が医学情報調査の道案内として,図書館などの調査業務に少しでも参考となれば幸いです。
(編集担当委員 岩沢一男,山地康志,小陳左和子,北島由紀子,吉野敬子,吉澤麻美)


医学書を探す:基本図書を主として

野口 迪子(のぐち みちこ) 北海学園大学図書館学課程   
医学書の基本図書は,なにかを探してみた。特徴を知るために米国の医学書の選択基準と評価技術を参考に,Brandon/Hillの選択リストを選んだ。医学書の基本図書は日本では,まだ明確なものがないが,洋書はtextbookに初版著者の人名を冠した伝統的なものがある。参考図書としても重要である。Brandon/Hillリストの最小コアリスト82冊とその翻訳書,またweb上の販売目録から2つを選び,それらの所蔵状況を比較した。NACSIS Webcatでも医学書の書誌および所在情報の確認が自由にできる。医学書の検索は冊子体目録によったが,インターネット時代になってweb上のデータベースが重要になってきた。  
キーワード:医学書,基本図書,Brandon/Hillリスト,NACSIS Webcat,インターネット,出版社


予稿集を探す

上原恵子(うえはら けいこ) (財)日本医薬情報センター 医薬文献部門   
医薬品の情報収集において学会予稿集は有用であるのか否か,トログリタゾンを例に検討を行った。その結果,学会での発表は医薬品情報,特に安全性についての情報収集においては欠かせないものであり,発表内容をまとめた予稿集もまたその性格・限界を認識して利用すれば医薬品情報収集における有用なツールであると考えられた。  
キーワード: 学会,予稿集,医薬品情報,トログリタゾン  

データ集を探す ―わが国における医療・患者情報―

川口 毅 (かわぐち たけし) 昭和大学医学部公衆衛生学教室  
傷病量を正確に把握することは難しい。傷病統計を利用する場合,その調査において傷病がどのように定義づけられているかを理解しておく必要がある。またそのデータがどのような対象(データソース)からどのような方法で集められたかを正確に知っておく必要がある。厚生省が現在行っている傷病統計について各調査の目的,長所,短所を紹介した。各調査はそれぞれの目的があって行われているので,各調査で得られた患者数をもとに全国の患者数の推計を行うとかなりの差がみられる。それらの資料を利用して傷病量の推定を行うときには,それぞれ長所,短所ならびに調査の対象や方法を十分に知ったうえで組み合わせて判断する必要がある。
キーワード: 傷病量,患者調査,データソース,医療施設調査,死亡統計(人口動態統計)

医薬品情報を探す

網本淳子( あみもと じゅんこ) 日本新薬活纐情報センター 学術情報部 情報資料課  
医薬品は適正に用いられることによってはじめてその効果を発揮し,そのためには,有効性,安全性,薬物動態,物理化学的性質などといったさまざまな情報が必要不可欠となる。このように,医薬品を使用する上で最も標準的で頻繁に使用される情報が,医薬品情報と呼ばれるものであり,開発段階から市販後調査に至るまでの期間を通して集積された情報が凝縮されている。本稿では,医薬品情報の情報源となる代表的な資料とその調査方法を述べる。また近年,インターネット上でも医薬品情報が公開されており,その代表的なサイトについても紹介する。
キーワード: 医薬品情報,添付文書,薬局方,医薬品集,インタビューフォーム,Webサイト,情報検索,データベース

副作用情報を探す ― そもそも医薬品の副作用とは何か ―

板谷幸一 (いたや こういち) 札幌医科大学医学部附属病院薬剤部  
情報検索に関し,医薬品の副作用にのみ有効な方法があるわけではない。そこで今回は,副作用情報の検索法というよりは,副作用情報とはそもそも何か,について以下の3点から述べた。1. 薬による副作用とは何か。臨床における発生状況,発生機序,およびその重篤度などから考えた。2. 臨床における副作用の発生から情報として固定されるまでの,法的側面について述べた。3. 手近の副作用関連文献を幾つかあげ,さらに本院での検索の概略を述べた。しかし,検索に王道なし,経験・センスが大事であり,最後は常識が基本となることにもふれた
キーワード:情報検索,医薬品副作用,副作用情報,副作用重篤度,副作用分類

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